柔軟に動く籠(かご)のようなもの
胸郭とは、骨格で出来た籠(かご)のようなものです。
その籠の中には心臓、肺、食道、それに横隔膜の下には胃や肝臓などの重要な臓器が収まっています。
緑色の部分が胸郭になります。
重要な臓器が傷つかないように守っているのが、この胸郭です。
重要な臓器を守る籠・・・そのように聞くと、ガチガチに固められた鎧(よろい)のようなイメージを持たれるかもしれません。
しかし本来、胸郭は柔軟に動くべきものなんです。
胸郭が固くなると、呼吸が浅くなって、心身ともにリラックスしにくくなります。
胸郭が固くなると、肩こり、腰痛、四十肩・五十肩などが出やすくなります。
胸郭が固くなると、内臓を圧迫してその働きを弱めてしまうことがあります。
今回の記事では、胸郭の構造についてご説明いたします。
読まれた方が、胸郭の構造を知って、胸郭がガチガチに固められた鎧ではなく、柔軟に動く籠だとイメージしていただけるようになれば幸いです。
そして次回以降の記事で、肩こり、腰痛、四十肩・五十肩の改善・予防を目的としたエクササイズを紹介いたします。
まずは、胸郭を構成する骨について見ていきます。
胸郭は多くの骨が組み合わさって構成されています。
胸郭を構成しているのは、12 個の胸椎(背骨の一部)、24 本の肋骨、そして胸骨(胸の前にあるネクタイ状の骨)です。
肋骨と胸骨の間には、肋軟骨という軟骨があります。
居酒屋メニューの軟骨の唐揚げをイメージしてください。
コリコリとした弾力のある食感が特徴ですが、手羽先の骨と比べると明らかに柔らかいことがお分かりいただけると思います。
胸郭が柔らかく動く理由のひとつ目が、この肋軟骨の柔らかさにあります。
肋軟骨は加齢とともに柔らかさが失われていくので、年齢とともに胸郭の動きが悪くなる一因となります。
ある程度固くなるのは仕方のないことですが、日頃からケアしておくことでその過程を緩やかにすることが期待できます。
次に見るのが、胸椎(背骨の一部)の動きについてです。
青枠で囲った部分が胸椎です。
背骨は、全体で24個の椎骨がタテに積み重なってできています。
そのうち肋骨がくっ付いている12個の椎骨のことを胸椎と言います。(上の画像で青枠で囲った部分です。)
胸椎同士の間には関節があるので、可動性があります。
これが胸郭が柔らかく動く理由のふたつ目です。
胸椎には得意な動きがあって、それは身体を横に倒す動きです。
ねじったり、前後に屈伸したりする動きは、できなくはないですが苦手です。
イメージとしては、「にょろにょろへび」というオモチャの動きが近いです。
にょろにょろへび
このオモチャは構造上、身体を横に曲げる動きが得意です。
ねじったり、屈伸したりする動きは、できなくはないですが苦手です。
その構造のため、シッポをつかんで左右に傾けると、実際のヘビに似た動きで身体をくねらせます。
右に左に身体をくねらせます。
胸椎の動きもこのオモチャと似ていて、ヘビのオモチャが垂直に直立した状態が、ヒトの胸椎の状態と一致します。
最後に見るのは、胸椎(背骨の一部)と肋骨のあいだにある肋椎関節です。
右の第十肋骨
上の画像で指差しているのが第十肋骨(上から数えて十番目の肋骨、左右一対ある)です。
その第十肋骨と胸骨(胸の前にあるネクタイ状の骨)と肋軟骨だけを取り出したのが、下の画像になります。
画像の中にも説明がありますが、肋骨の後ろの端が胸椎とくっ付いて、肋椎関節(ろくついかんせつ)を形成します。
肋椎関節の動きは、ポンプハンドル運動、バケツハンドル運動、キャリパー運動と呼ばれています。(何番目の肋骨なのかによって動きが微妙に変わります。)
この肋椎関節の可動性が、胸郭がやわらかく動く籠であることの理由の3つ目になります。
肋椎関節は、左右12対合計24本すべての肋骨と、それぞれの高さの胸椎との間に形成されています。
下の画像は、第二肋骨を同様にピックアップしたものです。
右の第二肋骨
以上をまとめますと・・・
【胸郭が柔らかく動く理由】
・肋軟骨が柔らかい。
・胸椎同士の間に関節がある。
・肋骨と胸椎の間に関節がある。
・・・ということになります。
これらのひとつひとつの関節や軟骨の動きは、小さな動きになります。
しかし、かなりの数の関節や軟骨の動きが積み重なっていくので、その影響は非常に大きく、身体全体にまでおよびます。
また、胸郭の動きが悪くなると一口に言っても、その悪くなり方は様々です。
胸郭の上下、左右、前後のバランスが良好なまま固まるということは、ほとんどありません。
ほとんどの方が、アンバランスなかたちで固まってしまっています。
肋軟骨のところで加齢による変化について触れましたが、関節もまた年齢を重ねるとともに固くなる傾向があります。
そのため、胸郭の動きは年齢とともに悪くなっていきます。
肩こりや腰痛が出やすくなるのも、胸郭の動きが悪くなることが一因です。
四十肩・五十肩が特定の年代の方に発症しやすいのも、胸郭の動きがしだいに悪くなっていき、ちょうどその年代の頃に肩関節への負担が限界に達することが多いためです。
ヒトの身体は筋肉も関節も軟骨も、定期的に動かしていないと固くなってしまいます。
胸郭の動きは意識しにくい分、得意な動きだけを限定的に繰り返して、苦手な動きはなおざりにしがちです。
運動不足を解消しようと、いくら体操やウォーキングに取り組んでも、胸郭の動きが限定的になってしまうのであれば、肩こりや腰痛、四十肩・五十肩などの慢性症状はなかなか良くなりません。
これらの慢性症状の根本改善のためには、胸郭に注目することが大事なのです。