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ちょっとした処世術として

古代中国の易のなかに、八卦(はっけ)の生成分化という考え方があります。

八卦というのは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の八卦ですが、

こう言うと、占いのイメージばかりが強くなってしまいますね。

実は、易には世界の成り立ちを説く哲学としての側面もあるのです。

詳しい内容について興味をお持ちの方は、検索して調べていただきたいと思います。

ここではざっくりと、易というのは占いだけではなく森羅万象の変化法則を説く哲学でもあるということを覚えておいてください。

その八卦の生成分化の過程のなかに、四象(ししょう)というものがあります。

四象とは世の中にある物事を4つのタイプ(太陰、少陰、少陽、太陽)に分類するという考え方です。

典型的なものに四季があります。

少陽が春、太陽が夏、少陰が秋、太陰が冬にそれぞれ対応しています。

(※ それぞれの季節の変わり目に土用という期間があり、そこにも重要な要素が割り振られているのですが、ここでは説明の簡便化のために省略します。)

その他にも方角(東西南北+中央)や色(青赤白黒+黄)などが対応しています。

また、この4つのタイプの分け方は、人間の性質についても当てはまります。

手元にある3冊の書籍から、人間の性質に関わる部分を以下に抜粋いたします。

【気功革命 治癒力編/盛鶴延 著/コスモス・ライブラリー/2005年】

太陰の人: 真面目で我慢強く、こつこつとひとつの物事を成し遂げるタイプです。計算に強く、それが苦にならないのも特徴です。ただ、陽気にはしゃぐことは苦手で、スポーツでは水泳やマラソンなどが得意です。

少陰の人: 太陰の人よりはもう少し陽性が強く、にぎやかな場所にも打ち解けることができますが、本来は静かにしている方が好きなタイプです。

少陽の人: 静かにしているよりも、みんなで騒いでいるほうが好きなタイプです。回りの人にも明るい印象を与え、営業などの仕事に向いています。

太陽の人: 声も太く、情熱家です。お腹を突き出すようにして歩き、よく汗をかきます。何より行動力があることが特徴です。

陽明の人: 陰陽どちらにも融通の利く、さわやかなタイプの人です。

【まんが黄帝内経/張恵梯 編訳/医道の日本社/1995年】

太陰の人: 心は陰険、貪欲、表は謙虚、温厚。本当の気持ちをなかなか顔に出さない。よく風向きを見ながら行動する。

少陰の人: 他人の物を欲しがり、他人の不幸を喜ぶ。心が冷たくて、人を助けることは絶対にしない。

少陽の人: 行動は慎重でうぬぼれがちである。ちょっとした役職についたら偉そうなかっこうをする。

太陽の人: 能力もないのによくほらを吹く。失敗しても反省せずに、人のせいにする。

陰陽平和の人: 動作に落ち着きがある。物事に恐れることもないし、喜びすぎることもないので、いつも平静な心持ちで物事に接する。人に思いやりがあり、高い地位についても謙遜し、その仁徳で人を感服させる。

※ 上の4つのタイプの性質については非常に辛辣なことが書かれていますが、そのタイプの人が必ずそういう性質を持っているということではなくて、そういう人間にならないように陰陽のバランスをとって陰陽平和の人になることを目指しましょうという道徳観を示していると思われます(やまね注)。

【安倍晴明 秘伝 陰陽師「式神」占い/九耀木秋佳 著/二見書房/2001年】

玄武: 玄武は水の陰の極まるところ、万物の終焉を司る式神です。しかも、そこには何かと邪悪さがつきまといます。知恵・知識や技巧を示し、損得勘定をきっちりさせますが、それはずるさや陰険さ、冷酷さなどと紙一重と言えます。ただし、型にとらわれない大胆な動きなどは、大きな吉とつながることもあります。

白虎: 移動や変化、疾病や刃物に関する象意を持つ白虎は、総じて凶意の強いカードです。権威を喜び、大事には吉意が増しますが、殺伐の気風を持つため犯罪に関わることも少なくありません。災害や死喪を示すことも珍しくなく、特に怪我疾病については凶意がかなり強く出るケースが多いでしょう。症状は重く長くなりやすく、容易に治癒しません。

青龍: 青龍は天帝を補佐する清廉潔白な大臣で、甘雨・慈雨を招く吉将です。人格方正にして富貴を司る神で、若々しいエネルギーに満ちています。凶意は少なく、富や権力の増進を強く示しますので、商行為について占う時にこの式神が出たら信用して動いて大丈夫です。ただし、潔癖さがかえって仇となり、窮地に陥ることがあります。

朱雀: 目立つことにかけては随一。知恵や美しさを象徴し、芸能関係には無類の強さを発揮しますが、暖かみに欠ける部分があります。招風神または飛火とされ、陽気ばかりで陰気が不足するため、かえって凶将となっています。朱雀は火の鳥です。鳳凰やフェニックスとの関係も指摘されており、いずれにしても中心となって衆目を集める華やかな存在です。それだけにプライドが高く、周囲との和合には問題があるかも知れません。

※ 玄武、白虎、青龍、朱雀は、まとめて四象とも呼ばれ、中国の神話において天の四方の方角を司る霊獣とされています。玄武が太陰、白虎が少陰、青龍が少陽、朱雀が太陽に対応しています(やまね注)。

3冊の書籍の内容を比べてみますと、共通点を多く見出せます。

(最後の『「式神」占い』に関してはズレているように感じる記述もいくつか見受けられますが。)

まず、東洋思想が元々そういうものなので当然なのですが、陽が正しくて、陰が悪いという二元論はここには見られないことがわかります。

後の方の2冊の抜粋部分に見られる、太陽の人に対する辛辣な批判が印象深いです。

「陽気ばかりなのがいいわけではない」という考え方は、一時流行したポジティブシンキングに対するアンチテーゼとして十分なものがあります。

太陰の人に関する記述は、かなりの共通点があります。

計算高いことが長所短所の両面として書かれています。

いつも冷静で我慢強く頑張れるというのが長所で、ずるさや冷酷さと紙一重というのが短所です。

少陰の人と少陽の人に関する記述は、各書籍のあいだにかなりの違いがあります。

陰質と陽質が入り混じっているのが特徴ですので、太陰の人や太陽の人に比べて分かりにくさがあるのかもしれません。

上の3つの書籍から受ける個人的なイメージは、少陰の人は心のうちにグッと力をため込むようなイメージ(後に爆発する)で、少陽の人は逆に外側に向かって拡散するイメージ(エゴも拡散しがち)です。

これらの分類のおおもとには、古代中国の占いであり哲学である易があります。

近代社会の日本においては、そのままのかたちで受け入れられるものではありません。

しかし、こっそりと心の中でまわりの人たちを分類して対応策を知ることは、ちょっとした処世術として有効かもしれません。

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