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首の筋肉の固さと感覚器官とのあいだの深い関係

本日ご来院くださった患者様は40代の女性で、当院のことはご知人からの口コミでお知りいただき、今年の2月から1~2か月に1度のペースで通っていただいております。

今回で3回目の施術となります。

初回の主訴は全身の左側が痛むということで、特に腰から下の痛みがおつらいとのことでした。

14年も前からその痛みに悩まされてきたそうです。

お身体を見てみますと、筋肉の左右のバランスが崩れてしまっていました。

全身的に左側の筋肉の緊張が強かったのです。

左側の緊張を指圧でほぐしたうえで、呼吸法指導を行いました。

呼吸法指導をすることで、右側の筋肉が活性化してきます。

それで左右の筋肉バランスを整えようという意図でした。

今回の状態は初回から比べるととても良くなっていらっしゃいました。

全身的に左右の筋肉のバランスが整ってきていると同時に、首や肩の筋肉がゆるんでいました。

首や肩の筋肉がゆるんでくるというのは、東洋医学で言うところの「上虚下実(じょうきょかじつ)」という身体イメージに近づく最初の段階です。

上虚下実とは、首や肩などの身体の上位にある部位は力が抜けていて(ゆるんでいて)、腰や下腹部や両脚のような下位にある部位はしっかりと力が入っている状態を言います。

東洋医学ではその状態を理想としていて、そういう身体を獲得した者は疲れにくく病気になりにくいと言われています。

ただ、この方の場合は、まだ股関節まわりの筋肉に左右差が残っていて、左の股関節周辺の筋肉が右にくらべて固い状態です。

これはご自身の身体の使い方の癖に原因があると、ご本人が自覚されています。

この方はスポーツを愛好されている方なんですが、スポーツをされていると、つい熱中してしまって、偏った身体の使い方をされてしまうとのことです。

過去2回の施術後は2週間ぐらいは調子がいいとのことでしたが、疲れがたまってくると痛みが再発してしまうそうです。

この点に関しては、今後さらなる対策を練っていきたいと考えています。

また、この方にはちょっと珍しい症状がありまして、それは左側を向いて横になるととても気持ち悪く感じるというものです。

ほんのちょっとでもそういう体勢をとるのが不快なので、もう何年も左を向いて寝たことがないとおっしゃっていました。

それが今回は数十分のあいだ左向きで横になっていただきましたが、気持ち悪く感じることはなく逆に気持ちがいいとのことで、ご本人も驚かれていました。

まずは、なぜ久しぶりに左向きに横になると気持ちいい感覚が出てきたのかですが…

人の身体の70パーセントは水分で構成されています。

その水分は重力に引かれて体内を移動していきます。

立った状態や座った状態のときは、脚の方に水分が移動してたまりやすくなります。

ですので、長時間立ち仕事やデスクワークをしていると、脚がむくみやすくなるのです。

上記のケースとは逆の理由で、何年ものあいだ左側を下にして横になっていない状況が続くと、水分や血流が身体の左半身に行きにくくなってしまいます。

その結果、細胞の中の水分が足りなくなったり、血流が足りなくなったりして、筋肉の中に老廃物がたまりやすくなり固くなりやすくなってしまいます。

数十分の間、久しぶりに左側を下にして横になられたときに、気持ちのいい感覚が出てきたのは、左半身の細胞に不足しがちだった水分が流れ込み、とどこおりがちだった血流量が増えたからです。

ではなぜ以前は左を向いて横になると気持ち悪くなったのでしょうか。

これはおそらく耳の中の平衡感覚をつかさどる器官が、何らかの原因で正常に働いていなかったためだと思います。

平衡感覚とは頭の傾きや回転に対する感覚です。

平衡感覚をつかさどる器官に異常があって、目で見る視覚情報などとのあいだに食い違いがあると(たとえば視覚では回転している情報を得ているのに、平衡感覚は回転していないという情報を得ている場合)、脳は身体に異常があると判断して、めまいや吐き気などの様々な反応を自動的に示すようになります。

この方の感じていた気持ち悪いという感覚は、めまいや吐き気まではいかなかったまでも、それらに似た反応の一種が出たのではないかと思われます。

耳の中にある平衡感覚をつかさどる器官が異常をきたすと、寝返りをうつだけでめまいを起こしてしまう場合があります。

この方の場合は、左向きに横になったときにだけそういった反応が出るような状態だったのではないかと推測しています。

首の筋肉の固さは、目や鼻や耳といった感覚器官とのあいだにとても深い関係があります。

たとえば、パソコン作業などで目を酷使すると後頭部のすぐ下あたりが固くなってしまいます。

首の固さがほぐれることで、鼻の通りがよくなるということもあります。

先述のとおり、この方は今回は首の筋肉がゆるんでいて非常にいい状態でした。

そのことが耳の中の平衡感覚をつかさどる器官の正常化にも良い影響をおよぼしたため、今回は左を向いて横になられても気持ち悪い感覚が出なかったのではないかと推測しています。

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