内臓の奥深くまでつながるツボ
「病膏肓に入る(やまいこうこうにいる)」という故事があります。
恥ずかしながら、わたくし、つい先ほどまでその意味を取り違えていました。
肩甲骨と背骨のあいだに膏肓(こうこう)というツボがあります。
「病膏肓に入る」ですから、「たいがいの病気はこのツボから邪気が入ってくることから始まるんだ!」ぐらいの意味だと思っていました。
だから、このツボの周辺をほぐしてやることが大事なんだ!…とか解釈しておりました。
実際にこのツボはかなり重要なツボでして、肩こりに悩まされている方の大半においてこのツボの周辺の筋肉がガチガチに固くなってしまっています。
ここの筋肉が固くなってしまうと、肋骨の動きが悪くなるので呼吸が浅くなってしまい…
酸素の取り入れ量が減り、代謝量も減り、ストレスもたまり…という悪循環が始まってしまいます。
言い得て妙だと、ずっと思っておりました。
昔の人はよく分かっていたんだなあ…と感心しておりました。
患者様にもっともらしい顔をしてそのように説明したこともあります。
しかし、実際の意味は…
1 治療のほどこしようのないほど病気が重くなる。
2 何かに熱中して抜け出せなくなるたとえ。
…だそうです。
膏肓というのもツボのことを指しているのではなく、心臓と横隔膜のあいだのことを指していて、要するに内臓の奥深くという意味らしいです。
つまり、邪気が内臓の奥深くに入り込んでしまって、針や灸の力が及ばなくなってしまうということなんですね。
しかしそうであるなら、なんで背中の表面に膏肓なんていう同じ名前のツボがあるんでしょうね。
心臓と横隔膜のあいだよりもちょっと上の高さの位置になりますし。
内臓の奥深くまでつながっているツボということなんでしょうか。
だったら邪気が内臓奥深くまで達していても、そこにつながるツボが体表にあるということですから、対処の仕様がありそうなもんですけど…。
つながってはいるが、入り込んでしまった邪気を取り除くほどの力は及ぼせないということでしょうか。
だとすれば、完全に入り込んでしまうまでに、膏肓というツボから内臓奥深くに働きかけることで、そうならないように予防的な処置を行うことは可能ということかもしれません。
「たいがいの病気はこのツボから邪気が入ってくることから始まるんだ!」というのは間違った解釈でしたが、
「病が内臓の奥深くに入り込んでしまう前に、膏肓というツボから働きかけて予防するんだ!」という解釈はそこまで的外れではないように思います。
この膏肓というツボは肩甲骨のすぐ内側にあるために、体勢によっては肩甲骨の下に隠れてしまいます。
どういう体勢が肩甲骨に隠れないかと言うと、一番良いのは座った体勢なんです。
横向きに寝る体勢やうつ伏せでも押せなくはないのですが、それぞれに押しにくさがあります。
これは珍しいことでして、たいがいのツボは座った状態では押しにくいのです。
そのため座った体勢で押すのは、時間がなかったりスペースがなかったりした時に仕方なしにそうする場合が多いのですが、膏肓のツボだけは例外ということなのです。
なぜ座った体勢の方が押しやすいのか、理由ははっきりとは分かりません。
肩甲骨および腕が重力で下に引かれていることや、肋骨が圧迫されていないことが何らかのかたちで影響しているとは思います。
昨年の商店街の夏祭りでは3分100円で座った状態で指圧をするというイベントを行なったのですが、非常にご好評を得まして皆さん列をなして並んでくださいました。
4時間ぐらい休みなく指圧をし続けていましたが、やはりほとんどの方の膏肓まわりの筋肉に固さが出ていました。
てっとり早く指圧の良さを知っていただくには、この座った体勢で膏肓を押すというのは非常に分かりやすい方法だと思います。
膏肓は座った状態で気軽に押せて、しかも効果が高いツボなのですが、すぐに肩甲骨に隠れてしまうことや座った状態だと身体が不安定になってしまうことが理由で、押すのには技術が必要になります。
机の角や柱の角などで、このツボのあたりをゴリゴリとこすりつけて刺激する方がいらっしゃいますが、これはおススメできません。
その時は強い刺激でコリの感覚がまぎれるので、楽になった気がしますが、筋肉の繊維を傷めてしまうので、後で炎症を起こしたり、筋肉がより固くなったりしてしまいます。
机や柱でゴリゴリするやり方では、強い刺激を与えることで血流は促進されはしますが、それと同時に筋肉に大きなダメージを負わせてしまうのです。
しっかりとした技術を持っている施術師は、ダメージを最小限にしつつ強い刺激を与える技術を持っています。
血流だけを促進して、炎症は起こさないという「おいしいとこ取り」ができるのが正しい技術なのです。
セルフケアをするとすれば、肩甲骨を動かすエクササイズや肋骨を動かす呼吸法あたりが挙げられます。
ただ、それも亀の甲羅のようなガチガチの固さになってしまうと、効果がほとんど見込めません。
ガチガチに固まってしまってどうしようもないという方は、やはりマッサージなどの施術を受けて膏肓まわりの筋肉をほぐしたうえで、エクササイズや呼吸法に取り組み、こりの再発を防ぐという段階的な考え方でいくのが良いでしょう。