マッサージ師・指圧師の理想
肩こり・腰痛は現生人類の宿痾と言えます。
それらは肥大した頭部を支えつつ、2足歩行を行うことからきています。
現代にいたり、その傾向はより強まっています。
視覚情報が氾濫して、眼は限界ぎりぎりまで酷使されています。
IT技術の進歩により、パソコンの前にじっと座り続ける時間が長くなり、使われるのは指先ばかりで、慢性的な運動不足が常態化しています.
肩こり・腰痛になるかどうかは、生まれ持った筋肉の質に影響されます。
若いうちから肩こり・腰痛に悩まされる人もいれば、そうでない人もいます。
しかし、遺伝的・先天的にどんなに筋肉の質が良くても、長期間にわたって1日8時間パソコンの前で作業を続けていれば、筋肉は固くなっていきます。
肩こり・腰痛から現生人類を完全に解放することは、おそらく不可能でしょう。
パソコンやテレビがなくなり、家事や労働もしなくてよくなり、育児も介護もしなくてよくなり、浜辺や草原で寝転がって暮らせるようになれば、誰もが心身のストレスから解放されて、肩こり・腰痛もこの世からなくなるでしょう。
しかし、それは現実的ではないです。
実際には肩こり・腰痛をうまくコントロールして、付き合っていくしかありません。
マッサージや指圧を受けるのも手です。
体操や呼吸法を身につけて実践するのもいいでしょう。
瞑想をして、精神面からアプローチするというやり方もあります。
病気やケガなどで寝たきりになってしまった方も、肩こり・腰痛に悩まされることが多いです。
ご本人は「何もしていないのに何故身体がこるんだろう?」とおっしゃいます。
それは何もしていないからこそ、筋肉は固くなってしまうのです。
筋肉が固くなってしまうと、さらに身体は動かしにくくなります。
それで悪循環が起こります。
ですので、寝たきりの方の筋肉は、細くて固いことが多いのです。
廃用症候群というのは、そういう仕組みで起こります。
動かさないから固くなり、固くなるからさらに動かさないということです。
細くて固くなってしまった筋肉をいきなり動かしますと、痛みがでます。
痛みがでるので、動かされるのが嫌になります。
そうしてリハビリを拒否される方もいらっしゃいます。
我慢強い方は、痛みを我慢してリハビリを受けられます。
それで、筋肉がしだいに太く、やわらかくなっていくこともあります。
それは成功例です。
しかし、痛みはストレスを生みます。
ストレスは筋肉を緊張させます。
動かすことで回復した分より、痛みのストレスで固くなる分が勝ってしまうと、なかなか良くなりません。
痛みに耐えて、よくなるかどうかは、痛みの度合やその方の心身の痛みに対する耐性によって変わってきます。
もちろん、重症度によっても変わりますが。
廃用症候群からの回復については、細く固くなってしまった筋肉をマッサージすることから始めなくてはなりません。
その上で動かしていくのです。
マッサージ師・指圧師がリハビリで貢献できるのは、まさにここです。
細く固くなってしまった筋肉をマッサージするのは、ちょっとしたコツが必要になります。
それは、パソコン作業で疲労した筋肉をほぐすのとは、ちょっと違ったコツです。
スポーツなどでバランスの崩れてしまった筋肉を調整するのも、また違うコツが必要です。
それぞれが違うコツを用います。
しかし、扱うのがヒトの筋肉であることに違いはありません。
筋肉の置かれた状況が違うだけです。
どんな状況の筋肉にも対応できることが、マッサージ師・指圧師のひとつの理想です。
別の理想に、「相性を超える」というものもありますが、それはまた次の機会に書こうと思います。