ボディワークと整体の違い(2)
ボディワークと整体は、その歴史もあり方も全く違うものでありながら、混同されがちなものです。なぜなら、それぞれの言葉の定義が曖昧であるからであり、徒手療術全般の施術者が「自分の施術は自分で受けることができない」ということから、究極的には自分の施術に自信を持つことができないからである(あくまでも究極的にはということであって、相対的な自信は持っていてもおかしくはありません。「どうやら自分は腕の良い施術者のようだ」という推察は可能ですので)・・・というのが前回のまとめですが、これだけでは全然説明が足りませんね。
本当の達人は世の中に存在すると思います。でも、いつの時代も、そういう方は例外的な存在であって、その辺にゴロゴロといるはずもないわけです。感覚的には日本だけに限って言えば、100人はいないだろうと思います。50人も怪しいんじゃないでしょうか。あくまでも感覚的に言っていますし、「本当の達人」の基準も明確じゃないので、本当にテキトーなんですが。
確率からすると、一生のうちに達人と出会えるのは、これだけ情報化が進んだ現代社会でもかなり低いはずなんです。しかし、実際は自称「達人」とか自称「ゴッドハンド」の多いこと、多いこと。
何が言いたいかと申しますと、例外的な存在としての本当の達人を除くと、資格の有無を問わず良心的で腕の確かな施術家というのは、究極的には自分の施術に自信を持っておりませんので、そんなにグイグイと自分を売り出してはこない、ということです。
職人気質ということや、徒手療術という業務の性質上、基本的にひとりずつしか対応できませんので、腕の確かな施術家ほど手一杯に患者さんを抱えていらっしゃるので、売り出す必要
がないということももちろんあるのですが、それに加えて相対的な自信しか持っていないので、自分を売り出さないということがあるんです。
良心的で腕の確かな施術家が、患者様の信頼を勝ち取り、市場を広げたところで、自称「達人」や自称「ゴッドハンド」が現れて、手先、口先の技術で徒手療術全般の信頼を損ないながら、利益をかっさらっていくという事態が起こっているわけです。
そこにメディア発の健康法ブームやら、柔道整復師の療養費不正申請問題やら、超高齢社会問題などの要素が絡み合って、徒手療術業界の市場は伸び縮みしています。
同じことが医師や薬剤師のあいだで起こるかと言うと、そんなことはありません。市場のサイズやそこで従事する人の数は、いろいろと黒い部分もあるようですが、徒手療術業界に比べると、ずっと着実に管理されています。
無資格の医師がたまに逮捕されてニュースになっていますが、無資格の徒手療術家が、無資格であるために逮捕されたというニュースはほとんど聞きません。何らかの被害を出してからはじめて逮捕されて、ニュースになります。
ここまで「徒手療術」という言葉をずっと使ってきましたが、本当は単に「マッサージ」と言ってしまった方がいいのかもしれません。日本国では法律でマッサージを生業としていいのは、医師とあん摩マッサージ指圧師のみと規定されています。しかし、あまりにも実状が法律とかけ離れているために、その規定は形骸化しています。
あん摩マッサージ指圧師に近い職業として柔道整復師や理学療法士がありますが、それらの職業でもマッサージを行うことは法律で禁じられています。しかし、実際の現場でその規定を厳守することは難しいです。実際に行っている内容はマッサージでも、「骨折や脱臼に対する整復術」、「機能回復のためのリハビリ」と称して施術しています。
法規制の甘さにしても、そして、先に述べた自称「達人」たちの参入のしやすさにしても、徒手療術業界の間口の広さを表していると思います。今日から自分はボディワーカーだ、整体師だと宣言して、看板を掲げること、それが実質的に許されているのが現状です。
それを食い止めるだけの押し出しの強さをあん摩マッサージ指圧師の有資格者側も持っていません。「資格があれば、人を治せるのか? 患者様からすれば、治ればどっちでもいいんじゃないのか?」と言われれば、「たしかにそうかもしれない。自分は自分の腕を磨いて、患者様の笑顔を増やすことに集中すればいいんだ」と、相対的な自信しか持たないマッサージ師は考えてしまいがちです(なかには押し出しの強いマッサージ師もおりますが、一部にとどまります)。(つづく)